――税金39%なのに、なぜみんな平然と売るのか?
最近の新聞なんかを見ていると、
・都内マンションの約1割が短期で売りに出されている
・都心の買い手のうち約4割が外国人で、その半分が中国人
こんな話がよく出てきます。
ここで、素朴な疑問が浮かびます。
「え、マンションって5年未満で売ると税金バカ高いんじゃなかったっけ?
それなのに、なんでそんなに短期売りが増えるの?
みんな税金払っても大儲けしてるってこと?」
さらに、
「住んでない外国人が持ってると、税金が優遇されてるの?
だから都心を買いまくってるの?」
この2つのモヤモヤを、できるだけ楽しく、でも中身は真面目に整理してみます。
【1.まず「短期売りの税金」がどれくらい重いのか】
不動産を売って利益(売却価格−購入価格−諸費用)が出ると、「譲渡所得税」がかかります。
個人の場合、ざっくりこんなイメージです。
・所有5年以下(短期譲渡)
→ 税率 約39%(所得税+住民税+復興税を合計したイメージ)
・所有5年超(長期譲渡)
→ 税率 約20%
つまり、
「5年未満で売ると、5年超のほぼ“倍”の税率で殴られる」
というルールになっています。
数字だけ見ると正直、
「いやいや、そんなの誰がわざわざ短期で売るんだよ…」
と言いたくなりますが、それでも短期売りは確実に増えている。
ここに、いくつかのカラクリがあります。
【2.短期で売っている=みんな儲かっている、は大きな勘違い】
まず一つ目のポイントは、
「短期で売っている人のすべてが“転売で儲けようとしている人”ではない」
ということです。
短期売りの統計の中には、こんな人たちもたくさん混ざっています。
・急な転勤で引っ越すことになった
・離婚で家を手放すことになった
・親の介護で実家に戻ることになった
・住宅ローンの返済が苦しくなって泣く泣く売る
こういう「ライフイベント売り」「事情売り」の場合、
・利益がほぼゼロ
・むしろちょっとマイナス
・トントンで逃げられれば御の字
みたいなケースも多いです。
この場合、そもそも「課税される利益」がほとんどないので、
税率が39%だろうが20%だろうが、インパクトは小さい。
つまり、「短期売りが1割ある」という数字の中には、
・本気で儲けを狙う短期転売勢
・生活事情で早めに売らざるを得なかった人たち
この両方がごちゃ混ぜになっていて、
「短期で売っている=全員が税引き後も大儲け」
という図は、完全に誤解だということです。
【3.それでも「税39%を飲み込んででもやる人」がいる理由】
とはいえ、ガチで利益を取りに行く短期勢がいるのも事実です。
彼らのロジックは、ざっくり言うと、
「値上がり幅が大きくて、ローンでレバレッジが効いているから、
税金が重くてもまだ十分おいしい」
というものです。
イメージしやすいように、数字で見てみます。
・都心のマンションを8,000万円で購入
・2年後、相場が上がって9,600万円で売却(+20%)
・売却にかかる仲介手数料や諸費用を300万円と仮定
この場合、
・粗利益:1,600万円
・諸費用差し引き後の実質利益:1,300万円
ここに短期譲渡税率 約39%をかけると、
・税金:およそ500万円ちょっと
・税引き後の手取り利益:ざっくり800万円前後
「税金、高っ…」と思いつつも、
「2年で800万円のキャッシュが手元に増える」
と考えると、「それでもやる価値はある」と判断する人は出てきます。
さらにレバレッジが効いていると、数字はもっと派手になります。
例えば、
・自己資金 1,000万円
・ローン 7,000万円(合計8,000万円の物件を購入)
という構成だと、
自己資金1,000万円に対して手取り利益800万円=2年で+80%。
年率にするとかなりの高リターンです。
もちろん金利やローン手数料など現実はもっと細かいですが、
「値上がり幅が大きくて、ローンでレバレッジが効く市場」では、
税金の重さをレバレッジと相場上昇でねじ伏せるプレイヤーが出る、ということです。
【4.そもそも「39%ルールの効き方」が違う人たちがいる】
もう一つのカラクリは、
「普通のサラリーマン投資家とは、税の効き方がそもそも違う人たちが、短期売りの数字を押し上げている」
という点です。
代表的なのは、次のようなパターンです。
パターン①:法人・プロ・業者
・デベロッパー
・買取再販業者
・不動産を“在庫”として回している法人
こういうプレイヤーは、
・個人の「短期譲渡所得39%」の枠組みではなく
・法人税(実効税率はざっくり30%前後)の世界で動いている
さらに、
・人件費
・借入金利
・その他の経費
などを経費計上して所得を調整できるので、
トータルの税負担は、個人の短期譲渡より軽くなることも多いです。
なので彼らにとっては、
「5年未満だからやめておこう」
という発想はあまりありません。
相場と利ざやと在庫回転だけを冷静に見ている世界です。
パターン②:自宅売却+3,000万円控除組
もう一つは、「居住用財産の3,000万円特別控除」です。
・自分や家族が実際に住んでいた自宅を売る場合
・一定の条件を満たせば、譲渡益から3,000万円まで控除できる
この制度が効くと、
・たとえば利益1,500万円で売っても、課税所得はゼロ
・所有期間が5年未満でも、実質的に税金ゼロ
というケースが普通にあります。
統計上は、こういった「自宅売却の短期売り」も
「短期転売」と同じグループに混ざってしまうので、
見た目には「短期売りが増えている」ように見えますが、
中身を分解すると、「39%のパンチを真正面から食らっている人ばかりではない」わけです。
【5.外国人オーナーは、税金で得をしているのか?】
もう一つよく出てくるテーマが、
「都心の買い手の40%が外国人、その半分が中国人らしい」
「住んでない外国人は税金が優遇されてるの?」
という話です。
結論から言うと、
「外国人だから税金が安い」というような優遇は基本的にありません。
・固定資産税
・都市計画税
・不動産取得税
・登録免許税
・譲渡所得税(売却益)
これらは、基本的に、
「日本の不動産を持っているかどうか」で決まる世界であり、
日本人か外国人か、という国籍で税率が変わるわけではありません。
むしろ、海外在住の外国人(非居住者)の場合、
・家賃収入に対して20%超の源泉徴収
・売却代金に対して10%超の源泉徴収
といった「とりあえず先にガッツリ引いておく」制度が適用されるので、
キャッシュフロー的には外国人の方がきつい側にいることも多いです。
じゃあ、なぜそれでも彼らは都心マンションを買うのか。
理由はシンプルで、
・自国の不動産市場や金融システムへの不信
・資本規制や政治リスクからの逃避
・円安で見たときの東京の“割安感”
・日本の法制度・治安への信頼
こういった要素が重なり、
「税金が安いから」ではなく、
「自国よりマシだし、資産の避難場所として優秀だから」
という理由で買っている、というのが実態に近いと思います。
日本の税制で得しているというより、
「リスクと比較したうえで、日本を選んでいる」というイメージです。
【6.短期売りブームの正体】
ここまでをまとめると、短期売りが増えている理由は、
税金そのものよりも、次のような構図が大きいと感じます。
・短期売り=全員が“転売で儲かっている人”ではない
→ 転勤・離婚・ローン返済など、事情売りも大量に混ざっている
・本気の短期転売勢は、値上がり幅×レバレッジで税金をねじ伏せている
→ 数年で2,000〜3,000万円動くようなエリアでは、税引き後でも十分おいしい
・プロ・法人は、そもそも「短期譲渡39%」ルールの効き方が違う
→ 法人税+経費でトータル負担を下げられる
・自宅売却+3,000万円控除が効いている短期売りもかなりある
→ 「短期=全部が重税でボコボコ」ではない
・外国人オーナーは税制で優遇されているわけではない
→ むしろ源泉徴収など、手間もキャッシュ負担も重い側
→ それでも「自国よりマシ」「資産退避先」として東京を選んでいる
その結果として、都心の一部では、
「富裕層・プロ・海外マネーにとって“転がしやすい市場”」
になってしまっている、というのが現状に近い姿だと思います。
【7.普通の日本人はどう考えるべきか?】
ここまで読むと、
「じゃあ自分も短期で転売して一発狙うか!」
と一瞬思うかもしれませんが、
正直、一般の個人にはかなりハードモードです。
・まず新築の人気物件は、抽選で当たらない
・ローン審査も厳格
・売却時の仲介手数料・登記費用・諸費用も重い
・市況が転んだ瞬間に、「高値づかみ組」に格下げ
短期の“転がし”というより、
「プロと富裕層が本気で殴り合っているリング」に、
後から素人が片足だけ突っ込むイメージに近いです。
普通の個人が現実的にやるなら、
・自分や家族の生活ニーズと、将来の売りやすさを両方考える
・「上がりそうだから」だけで買わない
・3,000万円控除や長期譲渡など、税制の基本を理解したうえで持ち方を決める
・投資として持つなら、レバレッジと出口戦略を最初に決めておく
このあたりをしっかり押さえた方が、
結果的に「人生トータルのリターン」は安定しやすいはずです。
短期売りのニュースを見たときは、
「みんな短期で儲けてるらしい」ではなく、
「税の効き方が違うプレイヤーと、事情売りがごちゃ混ぜになっている数字」
として理解しておくと、騙されにくくなります。
そして、自分がどの立場でその市場に関わるのか。
そこを冷静に見極めることが、これからの不動産との付き合い方で一番大事なポイントだと思います。











