前回までで、
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1)修繕積立金が足りない
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2)理事のなり手不足・高齢化で管理組合が回らない
という話をしました。
これら2つの問題を放置すると、
その先に待っているのが、
「老朽化が進み、空室が増え、マンション全体が“準スラム化”していくリスク」
です。
今日は、同じ不安を感じている方に向けて、
を、できるだけ具体的に整理してみます。
「準スラム化」って、どういう状態?
ニュースなどでも、
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・老朽マンション
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・管理不全マンション
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・空き家マンション
という言葉が出てきますが、
イメージとしてはこんな状態です。
ひと言でいうと、
「なんとなく、近寄りたくない雰囲気のマンション」
これが“準スラム化”の実態です。
ここまで来ると、
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・売ろうと思っても買い手がつかない
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・買い手がついても価格が想像以上に安い
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・ローン審査も厳しくなる
という、「出口が細くなる」状況に入っていきます。
どうしてそうなるのか? 3つの悪循環
「うちのマンションも、将来そうなるのでは…」
と不安になる前に、
まず仕組みを冷静に見てみましょう。
大きく分けると、原因は3つです。
1. 「お金」の悪循環
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・修繕積立金が足りない
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・長期修繕計画を見直してこなかった
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・大規模修繕のタイミングを逃した
その結果、
というループに入ります。
2. 「人」の悪循環
すると、
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・トラブル対応が遅れる
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・不良入居者が居座る
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・ルール違反を注意できる人がいない
結果として、
真面目な住民ほど「もう引っ越そうか」と考え、
モラルの低い層だけが残りやすくなります。
3. 「ルール」の悪循環
こうなると、
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・“グレーゾーン”を突いた行為が増える
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・注意しても「規約に書いてない」と開き直られる
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・結果として、“注意する方”が疲れて去っていく
マンションは「人+お金+ルール」のバランスで成り立っています。
この3つが同時に崩れ始めると、
下りのエスカレーターみたいな状態になっていきます。
「黄信号」と「赤信号」を見極めよう
いきなり崩壊するわけではありません。
多くのマンションには、
わかりやすい「黄信号」「赤信号」のサインがあります。
黄信号レベル(今ならまだ戻せる)
この段階はまだ「戻せるゾーン」です。
「なんとなく荒れてきたな」
と感じたタイミングで動けるかどうかが、
将来の分かれ道になります。
赤信号レベル(かなり危険)
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・修繕積立金の残高が、直近の大規模修繕費にも足りない
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・滞納者が目立って増えている
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・管理費の支払い遅延で、管理会社が委託契約の見直しを言い出している
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・空室率が高く、短期賃貸やややグレーな入居者が増えている
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・共用廊下やエントランスにゴミ・粗大ごみ・私物が長期間放置されている
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・夜間、エントランス周りの雰囲気が明らかに悪い(騒音・たまり場化など)
このレベルに入ると、
「もうやめよう」と考える住民が増え
「とりあえず安く貸そう」「売り抜けよう」という動きが加速
さらに質の悪い入居者が入りやすくなり、
一気に坂道を転げ落ちます。
そこから戻るために、何ができるのか
「もうダメなのかな…」
と思ってしまうかもしれませんが、
まだできることはあります。
1. まず「現状を見える化」する
数値で現状を整理しないと、
話し合いは感情論になってしまいます。
「なんとなくヤバい」から抜け出して、
「あと何年で、どの工事に、いくら必要なのか」
「そのときに足りない金額はいくらか」
をまず数字にしてしまうこと。
ここからしか、逆転のストーリーは始まりません。
2. 「資産価値」の言葉で説明する
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・見た目が古くなる
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・管理状態が悪くなる
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・空室やトラブルが増える
この状態はそのまま、
マンションの「価格」に跳ね返ります。
理事会で話すときも、
という説明の方が、
はるかに人は動きます。
「住み心地」+「出口(売却)の値段」
この2つをセットで示すことが、
住民の意識を変える一番のスイッチになります。
3. 「全部は無理」だから優先順位を決める
老朽化が進んでいるマンションほど、
全部を一度にやろうとすると、
お金も人も、確実にパンクします。
だからこそ、
「絶対に先送りしてはいけないこと」
「先送りしてもまだ致命傷にならないこと」
を分ける必要があります。
最優先で守るべきは、
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・安全・防犯に関わる部分
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・構造・防水(外壁・屋上・バルコニーなど)
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・法令上の義務(消防・設備点検など)
逆に、
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・美観アップのための装飾タイル
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・過剰な共用施設のリニューアル
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・なくても困らない設備の入れ替え
こういったものは一旦横に置き、
「壊れたら致命傷」になる部分から手を付ける方が現実的です。
4. 「住民の質」を守る仕組みを整える
荒れていくマンションの特徴は、
「住む人を選ぶ仕組みがない」
「ルール違反に対して、何もできない」
ことです。
最低限やっておきたいのは、
これをきちんと整えた上で、
「ここは、きちんとルールを守る人のためのマンションです」
というメッセージを出していくこと。
それが、
「いい住民が残りやすい環境」を作り、
結果として資産価値を守ることにつながります。
もしあなたが「今住んでいる側」だとしたら
いま読んでいるあなたが、
そのマンションに実際に住んでいる一人なら
できれば、
そこで、
「このまま行くと本当に危ないな」
と感じたら、
できる範囲で構いません。
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・一年間だけでも理事を引き受ける
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・「資料作りなら手伝えます」と名乗り出る
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・専門家への相談を、理事会に提案する
その一歩は、
マンション全体にとっては想像以上に大きな一歩です。
もしあなたが「投資家として見ている側」だとしたら
これからマンションを買おうとしている人、
すでに投資用に持っている人なら、
見るべきポイントはシンプルです。
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・修繕積立金残高と、長期修繕計画の中身
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・滞納率・空室率・賃貸化率
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・共用部の“空気”と、掲示板の内容(苦情の多さ)
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・理事会や総会がきちんと機能しているか
これらはすべて、
「このマンションが、
将来も“まともな資産”として残るかどうか」
の診断材料になります。
おわりに:坂道を“上る側”に回るという選択肢
老朽化・空室増加・準スラム化の話は、
どうしても暗くなりがちです。
でも、覚えておいてほしいのは、
マンションは、人が諦めたときにだけ、本当に崩れていく
ということです。
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・現状を数字で見える化する人
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・面倒な議題をちゃんとテーブルに乗せる人
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・「資産価値」という言葉で説明しようとする人
こういう人が一人でも増えると、
マンション全体は少しずつ“坂道を上る側”に回っていきます。
次回は、
この「準スラム化リスク」とも密接に関わってくる
④ 会計不正・管理会社とのトラブル
について、
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・どこからが「怪しいライン」なのか
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・防ぐためには何をチェックすべきか
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・トラブルになったとき、どこに相談すればいいのか
を整理していきます。
いま心のどこかで、
「うちのマンション、少し危ないかも…」と感じているなら、
それはきっと“早めの黄信号”です。
その感覚を、
どうか無視しないであげてください。
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