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2025/11/30

「移民モデル」と「不動産業」をつなげて考えてみる

――シンガポールとドバイから見える、日本のチャンスと怖さ――

前回のブログでは、シンガポールとドバイの「移民モデル」について書きました。

・シンガポールは「明るい北朝鮮」と呼ばれるくらい徹底した管理社会
・ドバイは人口の大半が外国人なのに、「移民問題」がなかなか表に出てこない都市

その裏側には、

「外国人を“市民”ではなく、“期限付きの労働力”として扱う」
「ビザと法律で、どこに住ませるか・どれくらい滞在させるかを細かくコントロールする」

という共通した設計図がありました。

今日はこの話を、不動産業・街づくりの視点につなげて考えてみます。
「移民政策」と「住宅政策」は、実はセットで考えないと破綻する――という話です。

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【1】シンガポールとドバイは、「住まい」まで政策で決めている

まず押さえておきたいのは、

シンガポールもドバイも、「外国人労働者の住まい」を完全に“制度の中”に組み込んでいる

という点です。

シンガポールでは、外国人の低賃金労働者について、

・雇用主は、政府の定めた基準を満たす住宅に住まわせる義務がある
・「外国人労働者用ドミトリー」を規制する専用法(Foreign Employee Dormitories Act)があり、
 収容人数・衛生・安全・レクリエーション施設などの条件が細かく決められているntuc.org.sg+3Ministry of Manpower Singapore+3シンガポール政府法令システム+3

つまり「外国人をどこに住まわせるか」は、
完全に“都市計画+労働政策の一部”になっているわけです。

ドバイ(UAE)も同じで、

・一定人数以上の低賃金労働者を雇う会社は、「労働者宿舎(ラバーキャンプ)」の提供が義務
・1人あたり最低3㎡、空調、換気、飲料水、医療・娯楽スペースなど、細かな規定がある
・宿舎は自治体や労働省に登録され、チェック対象になるlabotel.ae+5u.ae+5laboraccommodation.ae+5

これって、不動産業の言葉でいえば、

・「労働力インフラ」としての住宅
・行政がゾーニングと基準を決め、その枠内で民間が“箱”を供給する

というビジネスが、国全体で回っている、ということでもあります。

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【2】日本は真逆、「空き家だらけなのに受け皿が設計されていない」

一方、日本はどうか。

ご存じの通り、日本には今や約900万戸前後の空き家があると言われ、
総住宅数の13〜14%が「誰も住んでいない家」という統計も出ています。ww3.rics.org+3不動産リソース+3E-Housing+3

将来的には「3軒に1軒が空き家になる」との試算もあります。E-Housing+1

にもかかわらず、

・外国人労働者や留学生、技能実習生の「住まいの設計」は、ほとんど“個別交渉”任せ
・受け入れる現場(大家・管理会社・地域)が、そのつど感覚的にOK/NGを判断
・自治体レベルで「どこに、どれくらいの外国人を、どんな住宅に住まわせるか」を設計している例はまだ少数派

というのが正直なところだと思います。

その一方で、海外からは

・格安な空き家を買って別荘・セカンドハウスにする外国人
・インバウンド向けに古家をリノベして宿泊施設にする動き

も増えていて、「日本の空き家」は海外投資家からも注目され始めています。ニュース.com.au+1

ここに、日本の不動産業にとっての“チャンスと怖さ”が同時に存在していると感じます。

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【3】もし日本が「シンガポール型」「ドバイ型」を真似したら?

極端な仮説として、

「日本もシンガポールやドバイのように、“労働者用ドミトリー”モデルを全面導入したらどうなるか?」

を考えてみます。

例えば、

・工業団地や物流拠点の近くに、
 外国人ワーカー専用の大型ドミトリーを民間+自治体で整備する
・地方の人口減少エリアに、
 介護・農業・建設向けの“ワーカー・ビレッジ”を集約してつくる

こういう発想を取れば、

・通勤時間の短縮
・企業の採用力UP
・空き家の有効活用

という意味では、メリットは大きいかもしれません。

ただし、そのまま真似すると、

・「そこに住んでいる人たちは、ずっと“ゲスト”のまま」
・子どもが生まれても、地域の“普通の住民”としては扱われにくい
・治安や文化摩擦のリスクが出たときに、「ビザを切ればいい」という発想に流れやすい

という、シンガポール・ドバイ型の“二級市民構造”を再現してしまう危険もあります。

これは、日本の地方都市や住宅地のコミュニティを考えると、かなり重たいテーマです。

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【4】不動産業として考えたい3つのポイント

じゃあ、不動産業として現実的に何ができるのか。

シンガポールやドバイの「制度の見方」だけ借りて、日本らしいやり方を組み立てるとしたら、少なくとも次の3つは意識したいな、と僕は感じています。

(1)「住まいの種類」をはっきり分けて設計する

・長期定住のための“普通の住まい”
・数年スパンのワーカー向けレジデンス(社宅+シェアハウス型)
・短期滞在(観光・研修)向けの宿泊施設

この3つを、ごちゃ混ぜにしないこと。

「外国人用の部屋」とひとくくりにするのではなく、
どの層に、どの期間、どんな権利とサービスを付けるのか、
プロダクトとして整理していく必要があります。

(2)空き家・古家を「ワーカー向けレジデンス」として再定義する

地方の空き家や古い貸家を、

・企業と組んで、技能実習生・特定技能向けのシェアハウス化する
・単身者3〜4人+日本語教室+生活サポートがワンセットになった“住まいパッケージ”にする

といった形で再生できれば、

・空き家問題
・人手不足
・地域コミュニティの空洞化

を一気に“1つの案件”として扱える可能性があります。

(3)自治体と一緒に「受け皿エリア」をデザインする

本当は、民間だけでやるのではなく、

・「このエリアは外国人ワーカーの受け皿として強化する」
・「ここは子育て世帯中心のエリアにする」

といったゾーニングを、自治体と一緒に考えるフェーズに入っていくべきだと思います。

シンガポールやドバイのような強権的なやり方は日本には合わないかもしれません。
でも、

「誰が、どこに、どんな住まい方で住むのか」

を放置したまま外国人だけ増やすと、
結局は“野良ドミトリー”や“スラム化した空き家エリア”が生まれ、
住民同士の不信感が積み上がるだけになってしまいます。

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【5】移民問題は「住宅問題」でもある

結局のところ、

・移民問題
・人手不足
・空き家問題

この3つは、バラバラのテーマではなく、
ぜんぶ「住まい(不動産)」に集約される問題だと思っています。

・どんな人を受け入れるのか
・どれくらいの期間、どんな条件で住んでもらうのか
・街全体として、どこに人を集め、どこを縮退させるのか

これを設計しない限り、
どれだけ法律だけいじっても、現場は混乱するだけです。

シンガポールとドバイは、その答えとして

「強いルールで、外側に“ワーカーの街”をつくる」

という選択をしました。
その結果、国としては“移民問題”が見えにくい構造になった一方で、
移民側の人権や将来の選択肢には、かなりの犠牲が払われています。不動産リソース+1

日本は、同じルートをそのままなぞる必要はありません。

ただ、

「移民をどうするか?」

と同じくらい真剣に、

「その人たちに、どんな住まいと街を用意するのか?」

を考えなければ、
法律だけ変えても何も解決しない――これは、世界の例がはっきり教えてくれている事実です。

不動産業は、その「受け皿」を具体的な物件に落とし込む役割を持っています。
空き家・古家・遊休地をどう使うか。
どんな人に、どんな条件で貸すのか。

移民問題を、
「政治の話」「どこか遠い大都市の話」で終わらせるのではなく、

自分が扱っている一棟・一戸・一筆の土地から、
街の人口構成と将来像を逆算していく。

そんな目線で物件を見ると、
シンガポールやドバイの“キラキラした表面”とはまた違う、
リアルなビジネスチャンスとリスクが見えてきます。

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