移民問題の成功例?
「移民問題がない国」シンガポールとドバイの正体 「シンガポールは明るい北朝鮮」 そんなフレーズを、一度はどこかで耳にしたことがあるかもしれません。 でも、実際に制度を調べていくと、もう少し違う景色が見えてきます。 結論を先にまとめると、 ・シンガポールが「明るい北朝鮮」と呼ばれるのは、かなり当たっている部分がある そして、両方に共通しているのは、 「移民や外国人を受け入れているように見えて、 という点です。 この構造を知ってしまうと、日本やヨーロッパで語られる「移民問題」とは、そもそも前提のルール設計がまったく違う、ということがはっきりしてきます。 ------------ 【1】シンガポールが「明るい北朝鮮」と呼ばれる理由 シンガポールについては、ある作家が ・与党・人民行動党(PAP)が独立以来ほぼずっと政権を握る、半ば一党支配 「明るい北朝鮮」というあだ名は、 そしてこの「管理社会」の感覚は、外国人の扱いにも強く反映されています。 ――外国人は「移民」ではなく、期限付きのゲストワーカー シンガポールは人口に占める外国人の割合が高い国ですが、その多くは「移民」ではなく、あくまで「期限付きの外国人労働者」として扱われています。 ビザはざっくり三階建てです。 ・高給エリート向け:Employment Pass(EP) ここに効いてくるのが、 ・外国人比率の上限:Dependency Ratio Ceiling(DRC) です。 たとえば、サービス業なら「外国人(S Pass+Work Permit)は従業員全体の○%まで」と上限が決まっていて、それを超えようとするとレヴィが跳ね上がる仕組みになっています。 さらに、低賃金の Work Permit 層は、 ・在留期間は数年ごとの更新制で、永住前提ではない という条件のもとで働いています。 ざっくり言ってしまえば、 「シンガポール人」=フルメンバー という二重構造の社会です。 低賃金層の外国人には、長時間労働や狭い寮生活などの問題も多く指摘されていますが、彼らには選挙権も政治的な発言権もほとんどありません。 ------------ 【2】ドバイ:人口の大半が外国人、それでも移民問題が見えにくい都市 一方、ドバイを含むUAE(アラブ首長国連邦)は、数字だけ見るともっと極端です。 国全体で見ると、人口の7〜8割以上が外国人労働者と言われています。 それでも、「移民が問題だ!」という政治的な大騒ぎが起きにくいのは、やはり制度設計の話になります。 ――カファラ制度(スポンサー制)という仕組み ドバイを含む湾岸諸国では、長年「カファラ制度」と呼ばれるスポンサー制のもとで労働移民を管理してきました。 ・外国人は、現地の企業や個人(スポンサー)がいないとビザを取れない 人権団体の報告によれば、この仕組みが ・パスポート取り上げ など、多くの人権侵害につながってきたと指摘されています。 近年、制度改革は進んでいるものの、「ビザも生活も雇用主に握られている」という構造は今も色濃く残っています。 ------------ 【3】「ドバイでは移民の妊娠禁止」は本当か? ここが、今回のテーマのなかで一番誤解が生まれやすいポイントです。 結論から言うと、今の法律だけを見れば、 「ドバイ(UAE)で“移民の妊娠が法律で禁止されている”」 というのは誤りです。 ただし、過去の運用とイスラム法の考え方を合わせてみると、「妊娠禁止」と言われても仕方ないような状況が長く続いていたのも事実です。 ――昔:事実上「未婚で妊娠したらほぼアウト」に近かった UAEでは長年、イスラム法(シャリーア)に基づき、 ・婚外セックス(ジナ)は犯罪 とされてきました。 未婚のカップルが妊娠すると、それ自体が「違法な性行為の証拠」とみなされるケースもあり、 ・未婚で妊娠した女性が逮捕・拘束される といった事例が国際メディアでも報じられてきました。 この運用だけ見れば、実務的には 「未婚で妊娠したら人生終了」 と受け取られても不思議ではありません。 ――最近:法改正で婚前セックスは原則非犯罪化 ところが2020年以降、UAEでは刑法や個人法の大きな改正が行われました。 ・未婚カップルの同棲 が、条件付きではあるものの「原則非犯罪化」という方向に変わっています。 ・婚姻外で生まれた子どもの出生登録 も、未婚の親でも条件を満たせば可能になってきました。 最近の法解説では、 「成人同士の合意があり、一定の条件を満たす場合、未婚の妊娠自体は違法ではない」 とはっきり書いているものもあります。 なので、今の法律ベースで言えば、 「ドバイでは移民が妊娠したら違法になる」 というのは間違いです。 ――とはいえ、“自由な欧米並み”とはほど遠い ただし、ここで話が終わらないのが中東の難しいところです。 ・病院や役所が、実務レベルでは今も結婚証明書を求めるケースがある といった報告も多く、「法律上はOKになったが、現場の運用はまだ追いついていない」というギャップも指摘されています。 さらに、移民労働者の場合は、 「妊娠をきっかけに、雇用主に契約を切られる → ビザが維持できない → 帰国せざるをえない」 という実務上のリスクも存在します。 つまり、 ・今の法律だけ見れば「妊娠禁止」は誤り というのが、ドバイ/UAEの現在の姿に近いといえます。 ------------ 【4】なぜシンガポールやドバイでは「移民問題」が燃えにくいのか ここまでの話をまとめると、両者に共通する構造が見えてきます。 ポイントは2つです。 1つ目は、「市民」と「移民」の権利を、最初からはっきり分けていること。 ・選挙権や政治参加 こういった「コストのかかる権利」は、基本的には自国民だけのもの。 2つ目は、「豊かで安全」な表の顔の裏側に、見えにくいコストが積み上がっていること。 ・過酷な労働時間と低賃金 こういった負担を、主に移民側が背負っているからこそ、 「明るい北朝鮮」 その足元には、かなり冷徹な制度設計と、見えにくい犠牲が横たわっている、ということです。 ------------ 【5】日本はどのモデルを目指すのか? 日本でも、人手不足や少子高齢化の中で、「移民を受け入れるべきか?」という議論が繰り返されています。 ざっくりとモデルを比べてみると、 ・ヨーロッパ型 ・シンガポール/ドバイ型 日本は現状、このどちらにも振り切れていない、中途半端な状態に見えます。 ・表向きは「移民政策はとらない」と言いつつ というのがリアルな姿ではないでしょうか。 ------------ 【6】フレーズに惑わされず、「制度の設計図」を見よう 「明るい北朝鮮」 こうした強いフレーズはインパクトがありますが、その影には必ず「制度の設計図」があります。 ・シンガポールは、外国人比率の上限やレヴィ、ビザの三層構造で、 ・ドバイは、カファラ制度や刑法改正を通じて、 問題が「ない」のではなく、 自国民の政治問題として燃えにくくするのか。 日本がどちらの方向に向かうのか。 移民問題を考えるとき、目立つスローガンだけで判断するのではなく、 |








