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2025/11/10

移民問題の成功例?

「移民問題がない国」シンガポールとドバイの正体
――“明るい北朝鮮”と“キラキラ砂漠シティ”の裏側――

「シンガポールは明るい北朝鮮」
「ドバイは移民の妊娠禁止」

そんなフレーズを、一度はどこかで耳にしたことがあるかもしれません。
僕も最初は、「やっぱり相当エグい管理社会なんだろうな」と思っていました。

でも、実際に制度を調べていくと、もう少し違う景色が見えてきます。

結論を先にまとめると、

・シンガポールが「明るい北朝鮮」と呼ばれるのは、かなり当たっている部分がある
・一方で、ドバイの「妊娠禁止」は、今の法律としては間違い(ただし昔の運用を考えると、そう聞こえてしまう理由はある)

そして、両方に共通しているのは、

「移民や外国人を受け入れているように見えて、
 実は“自国民の移民問題にならないように、ビザと法律で徹底管理している”」

という点です。

この構造を知ってしまうと、日本やヨーロッパで語られる「移民問題」とは、そもそも前提のルール設計がまったく違う、ということがはっきりしてきます。

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【1】シンガポールが「明るい北朝鮮」と呼ばれる理由

シンガポールについては、ある作家が
「Disneyland with the death penalty(死刑付きディズニーランド)」
と表現したことで有名になりました。

・与党・人民行動党(PAP)が独立以来ほぼずっと政権を握る、半ば一党支配
・麻薬犯罪などに対しては死刑やムチ打ち刑など、非常に厳しい刑罰
・言論やデモ、集会などの自由には強い制限がある
・その一方で、治安はよく、街はきれいで、ビジネス環境は世界トップクラス

「明るい北朝鮮」というあだ名は、
“経済的には豊かでキラキラしているけれど、政治・社会はかなり管理されている”
という意味での比喩だと考えると、意外としっくりきます。

そしてこの「管理社会」の感覚は、外国人の扱いにも強く反映されています。

――外国人は「移民」ではなく、期限付きのゲストワーカー

シンガポールは人口に占める外国人の割合が高い国ですが、その多くは「移民」ではなく、あくまで「期限付きの外国人労働者」として扱われています。

ビザはざっくり三階建てです。

・高給エリート向け:Employment Pass(EP)
・中堅・専門職向け:S Pass
・建設・工場・家事労働など低賃金層:Work Permit

ここに効いてくるのが、

・外国人比率の上限:Dependency Ratio Ceiling(DRC)
・外国人1人あたりにかかる追加コスト:レヴィ(人頭税のようなもの)

です。

たとえば、サービス業なら「外国人(S Pass+Work Permit)は従業員全体の○%まで」と上限が決まっていて、それを超えようとするとレヴィが跳ね上がる仕組みになっています。
つまり、「人手不足だから全部安い外国人で埋める」というやり方が、制度的にブロックされているわけです。

さらに、低賃金の Work Permit 層は、

・在留期間は数年ごとの更新制で、永住前提ではない
・雇用主や職種を自由に変えにくい
・家族帯同は基本的に認められない
・永住権や市民権へのルートはほぼ閉ざされている

という条件のもとで働いています。

ざっくり言ってしまえば、

「シンガポール人」=フルメンバー
「外国人労働者」=期限付きの外部労働力

という二重構造の社会です。

低賃金層の外国人には、長時間労働や狭い寮生活などの問題も多く指摘されていますが、彼らには選挙権も政治的な発言権もほとんどありません。
だからこそ、「移民問題」がシンガポール人の政治争点として燃え上がりにくい構造になっている、とも言えます。

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【2】ドバイ:人口の大半が外国人、それでも移民問題が見えにくい都市

一方、ドバイを含むUAE(アラブ首長国連邦)は、数字だけ見るともっと極端です。

国全体で見ると、人口の7〜8割以上が外国人労働者と言われています。
「世界で最も移民比率が高い国」と呼ばれることもあるほどです。

それでも、「移民が問題だ!」という政治的な大騒ぎが起きにくいのは、やはり制度設計の話になります。

――カファラ制度(スポンサー制)という仕組み

ドバイを含む湾岸諸国では、長年「カファラ制度」と呼ばれるスポンサー制のもとで労働移民を管理してきました。

・外国人は、現地の企業や個人(スポンサー)がいないとビザを取れない
・ビザと在留資格はスポンサーに紐づき、転職や出国にもスポンサーの影響が大きい
・スポンサーとの関係が切れれば、その時点で在留の基盤も危うくなる

人権団体の報告によれば、この仕組みが

・パスポート取り上げ
・劣悪な住環境
・長時間労働

など、多くの人権侵害につながってきたと指摘されています。

近年、制度改革は進んでいるものの、「ビザも生活も雇用主に握られている」という構造は今も色濃く残っています。

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【3】「ドバイでは移民の妊娠禁止」は本当か?

ここが、今回のテーマのなかで一番誤解が生まれやすいポイントです。

結論から言うと、今の法律だけを見れば、

「ドバイ(UAE)で“移民の妊娠が法律で禁止されている”」

というのは誤りです。

ただし、過去の運用とイスラム法の考え方を合わせてみると、「妊娠禁止」と言われても仕方ないような状況が長く続いていたのも事実です。

――昔:事実上「未婚で妊娠したらほぼアウト」に近かった

UAEでは長年、イスラム法(シャリーア)に基づき、

・婚外セックス(ジナ)は犯罪

とされてきました。

未婚のカップルが妊娠すると、それ自体が「違法な性行為の証拠」とみなされるケースもあり、

・未婚で妊娠した女性が逮捕・拘束される
・出産や出生登録の場面で結婚証明書を求められ、対応できなければ強制送還

といった事例が国際メディアでも報じられてきました。

この運用だけ見れば、実務的には

「未婚で妊娠したら人生終了」
=「妊娠禁止に等しい」

と受け取られても不思議ではありません。
おそらく、日本人駐在員や旅行者の間で広まった「ドバイは妊娠禁止」という話は、この時代のルールと運用がベースになっています。

――最近:法改正で婚前セックスは原則非犯罪化

ところが2020年以降、UAEでは刑法や個人法の大きな改正が行われました。

・未婚カップルの同棲
・婚前セックス

が、条件付きではあるものの「原則非犯罪化」という方向に変わっています。
それに合わせて、

・婚姻外で生まれた子どもの出生登録
・出生証明書の発行手続き

も、未婚の親でも条件を満たせば可能になってきました。

最近の法解説では、

「成人同士の合意があり、一定の条件を満たす場合、未婚の妊娠自体は違法ではない」

とはっきり書いているものもあります。

なので、今の法律ベースで言えば、

「ドバイでは移民が妊娠したら違法になる」

というのは間違いです。

――とはいえ、“自由な欧米並み”とはほど遠い

ただし、ここで話が終わらないのが中東の難しいところです。

・病院や役所が、実務レベルでは今も結婚証明書を求めるケースがある
・手続きが複雑で、特に立場の弱い移民労働者の女性にはハードルが高い
・文化的・宗教的には、婚外妊娠へのタブー意識が強く残っている

といった報告も多く、「法律上はOKになったが、現場の運用はまだ追いついていない」というギャップも指摘されています。

さらに、移民労働者の場合は、

「妊娠をきっかけに、雇用主に契約を切られる → ビザが維持できない → 帰国せざるをえない」

という実務上のリスクも存在します。
紙の上では産休や妊婦保護の規定があっても、それを本当に使えるかどうかは、雇用主と本人の力関係次第、という厳しい現実もあります。

つまり、

・今の法律だけ見れば「妊娠禁止」は誤り
・しかし、弱い立場の移民女性にとって、依然として妊娠は大きなリスクを伴う

というのが、ドバイ/UAEの現在の姿に近いといえます。

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【4】なぜシンガポールやドバイでは「移民問題」が燃えにくいのか

ここまでの話をまとめると、両者に共通する構造が見えてきます。

ポイントは2つです。

1つ目は、「市民」と「移民」の権利を、最初からはっきり分けていること。

・選挙権や政治参加
・手厚い福祉や社会保障
・永住権や市民権へのルート

こういった「コストのかかる権利」は、基本的には自国民だけのもの。
外国人労働者、特に低賃金層は、あくまで“ゲスト”として扱われ、問題があればビザを切ることで、いつでも「元の国にお返し」できる設計です。

2つ目は、「豊かで安全」な表の顔の裏側に、見えにくいコストが積み上がっていること。

・過酷な労働時間と低賃金
・窮屈な宿舎での集団生活
・パスポート取り上げや転職の自由の制限

こういった負担を、主に移民側が背負っているからこそ、
シンガポール人やUAE市民の側では「移民問題」が大きな政治争点になりにくい、という側面もあります。

「明るい北朝鮮」
「キラキラ砂漠シティ」

その足元には、かなり冷徹な制度設計と、見えにくい犠牲が横たわっている、ということです。

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【5】日本はどのモデルを目指すのか?

日本でも、人手不足や少子高齢化の中で、「移民を受け入れるべきか?」という議論が繰り返されています。

ざっくりとモデルを比べてみると、

・ヨーロッパ型
 → 移民が長期定住し、市民権を取り、二世三世が生まれる。
   文化・アイデンティティ・治安などが大きな政治争点になりやすい。

・シンガポール/ドバイ型
 → 外国人は「期限付きゲストワーカー」。
   市民の外側に巨大な“二級市民層”をつくり、問題があればビザを切ることで調整する。

日本は現状、このどちらにも振り切れていない、中途半端な状態に見えます。

・表向きは「移民政策はとらない」と言いつつ
・実際には、技能実習や特定技能などを通じて、外国人労働者に依存し始めている
・しかし、長期的な権利設計や社会統合のビジョンは、まだ十分に議論されていない

というのがリアルな姿ではないでしょうか。

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【6】フレーズに惑わされず、「制度の設計図」を見よう

「明るい北朝鮮」
「移民の妊娠禁止」

こうした強いフレーズはインパクトがありますが、その影には必ず「制度の設計図」があります。

・シンガポールは、外国人比率の上限やレヴィ、ビザの三層構造で、
 “豊かで安全、でも管理された社会”を維持している。

・ドバイは、カファラ制度や刑法改正を通じて、
 “巨大な移民労働力に支えられたグローバル都市”を回している。

問題が「ない」のではなく、
「誰の問題として表面化する仕組みになっているか」が違うだけ。

自国民の政治問題として燃えにくくするのか。
それとも、「同じ市民」として受け入れ、時間をかけて一緒に社会をつくっていくのか。

日本がどちらの方向に向かうのか。
あるいは、まったく別の第三のモデルを描けるのか。

移民問題を考えるとき、目立つスローガンだけで判断するのではなく、
その国の「制度の設計図」を覗き込んでみると、見えてくる風景はだいぶ違ってきますね。

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