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2025/12/06

マンション管理組合に共通する「6つの爆弾」

いま、全国のマンションでよく聞く悩みは、だいたい次の6つに集約されます。

  1. ①修繕積立金が足りない

  2. ②理事のなり手がいない・高齢化で運営が回らない

  3. ③老朽化と空室増加で「準スラム化」していく不安

  4. ④会計の不透明さ・横領・管理会社とのトラブル

  5. ⑤建替えや長寿命化工事の合意がまとまらない

  6. ⑥民泊・ペット・騒音・EV充電など、日常トラブルが増えている

どれも一つひとつが重いテーマですが、
共通しているのは

建物は年を取るのに、
お金と人とルールのアップデートが追いついていない

という点です。

このシリーズでは、
同じことで悩んでいる理事長さん、理事さん、区分所有者の方に向けて、
「責めない」「一人で抱え込まない」を前提に、
それぞれの問題と現実的な打ち手を一緒に整理していきます。

今日はその中でも、いちばん多くのマンションがぶつかっている

① 修繕積立金が足りない問題

に絞って、解決の方向性と、心の持ち方も含めてお話しします。


1. まず、「誰のせいか探し」をやめるところから

「修繕積立金が足りません」
「このままだと大規模修繕ができません」

こう言われると、ついこう考えたくなります。

  • 前の理事会がちゃんとやらなかったからだ

  • 管理会社がちゃんと説明しなかったからだ

  • 自分が引き受けなければよかった…

でも、ここが一番大事なポイントです。

あなたがダメだから足りなくなったわけではありません。

多くのマンションは、スタートの時点で

  • 「販売しやすいように、管理費・修繕積立金を低めに設定する」

という“営業上の事情”を抱えたまま売り出されています。
さらに、建設費や人件費がどんどん上がっているのに、
長期修繕計画も積立金も見直されてこなかった

つまり今の状況は、

新築時の設計ミス+その後の放置のツケが、
たまたま「今の理事会」に回ってきているだけ

とも言えます。

だから最初にやるべきことは、

  • 犠牲者探し
    ではなく

  • 「どれくらい足りないのか」を冷静に把握すること

ここからしか話は始まりません。


2. ステップ1:「本当にいくら必要なのか」を出し直す

「足りない足りない」と言われても、
具体的に “いくら不足なのか” が見えないと、誰も動けません。

① 長期修繕計画を“今の時代用”にアップデート

築年数がそこそこ経ったマンションの長期修繕計画は、

  • 古い単価で作られたまま

  • 型だけ整えた、ほぼ“飾り”

になっていることも多いです。

ここを一度、きちんとやり直します。

  • 外壁・屋上防水・廊下やバルコニー・配管

  • エレベーター・ポンプ・受水槽・機械式駐車場 など

「今の工事単価」で
30〜40年スパンの修繕スケジュールと概算費用を出し直す。

ここをケチると、
将来また同じセリフを言うことになります。

② 国の“目安”と自分たちのマンションを比べる

国のガイドラインには、
マンションのタイプ別に「修繕積立金の目安(月額)」が出ています。

ここでやることはシンプルです。

  • 自分のマンションの現状の積立金

  • ガイドラインの目安金額

を並べる。

これをやるだけで、

「そもそもスタートが安すぎた」
「いまの金額は“普通”ではない」

という現実が、感情抜きで見えてきます。

これは、
「理事会が勝手に高い金額を要求しているわけじゃない」
と伝えるための、強い材料にもなります。

③ 「このまま行くと、いつ・いくら足りないか」を可視化

住民の意識を変えるスイッチは、ここです。

  • 今の積立ペースを続けると、

    • 10年後の大規模修繕で △△万円不足

    • 20年トータルで見ると、1戸あたり ○○万円の赤字

みたいな形で、時期と金額をセットで見える化します。

グラフにして、

  • 緑のライン:本来必要な積立額

  • 赤のライン:現状の積立額

  • 交わったところが「資金ショートする年」

こうやって図で見せると、

「なんか足りないらしい」
→ 「このままなら確実に詰む」

に変わってきます。


3. ステップ2:積立金を“現実的なペース”で上げる

必要額が見えてきたら、次の勝負はこれです。

「どのくらいのペースで、その水準まで近づけるか」

① 目標は「均等積立」に近づける

理想は、

将来必要になる金額を、毎月コツコツ均等に積み立てる形

です。

ただ、現実には

  • 現在:7,000円/月

  • 理想(均等積立):15,000円/月

みたいな差が出るマンションもあります。

ここで

  • 「来月から15,000円でお願いします」

と言ったら総会が爆発します。

なので、現実的なやり方は、

② 段階的な“値上げカーブ”を決める

例えばこんなイメージです。

  • 今年〜3年後:月7,000 → 10,000円

  • 4〜6年後:月10,000 → 13,000円

  • 7〜10年後:月13,000 → 15,000円

こうした 「いつ・いくらに上がるか」
年表とグラフで住民に示します。

ここで大事なのは、

  • 何年後に「資金ショートしない状態」になれるのか

  • それまでに来る大規模修繕をどう乗り切るのか

を、セットで示すこと。

③ 住民への説明は「順番」が命

修繕積立金の値上げは、
どうしても感情的な反発が出やすいテーマです。

だからこそ、説明の順番が大事です。

  1. 今のまま行くとどう破綻するか

    • 「何年後に」「いくら足りなくなるか」

  2. 本来必要な額(均等積立)のライン

  3. その差を、何年かけて埋めていくか(シミュレーション)

  4. 値上げしなかった場合の“もっと痛い未来”

    • 一時金100万円請求

    • 修繕できずに資産価値が大きく下がる

    • 「売りたくても買い手がつかないマンション」になる

人は、
「嫌なこと(値上げ)」だけを聞くと全力で拒否しますが、

「もっと嫌な未来を避けるための、まだ軽い痛み」

だと納得しやすくなります。


4. ステップ3:直近の工事資金は「4枚のカード」で乗り切る

積立金の設計を直しても、こういうケースは多いはずです。

  • 「でもウチ、3年後に大規模修繕が来るんだよ…」

  • 「その前に外壁が危ないって言われている」

この“目の前の工事”をどうするかは、
次の4つのカードの組み合わせで考えます。

① 工事内容・仕様・業者の見直し

  • 優先度の高い工事(構造・防水・安全)は削らない

  • 美装系・快適性アップ系は一部先送りも検討

  • 見積もりは必ず複数社から取り、可能なら第三者に確認してもらう

「安さだけで選ぶ」のは危険ですが、
無駄なグレードアップ工事が紛れ込んでいるケースも多いです。
“守るべきところ”と“削ってもいいところ”を仕分けするだけで、
数%〜数十%下がることもあります。

② 一時金徴収(臨時の負担)

  • 足りない分を戸数割りして、一時金として集める方法です。

  • 仕組みは単純でわかりやすいですが、

    • 金額が大きいと「払えない層」が必ず出る

    • 滞納が増えると、さらに状況が悪化する

なので、

「全部を一時金で賄う」は基本NG。
足りない分の一部を補う手段と割り切る方が安全です。

③ 管理組合としての借入(ローン)

  • 管理組合名義でローンを組み、
    工事費をいったんまとめて調達する方法です。

メリット:

  • 一時金を用意できない人を救済できる

  • 必要な工事を先送りせずに済む

デメリット:

  • 利息負担が出る

  • 積立金+返済で、毎月の負担は重くなる

ここは、

  • 「どのくらい借りて」

  • 「何年で返済して」

  • 「その間、積立金をどこまで上げるか」

をセットで設計しないと、
『第二の資金不足』を将来に作ることになります。

④ 工事の分割・時期の調整

  • 緊急度の高いところだけ先にやる

  • 優先度が低い部分は次回に回す

こうやって、一度に必要な金額を圧縮する方法です。

ただし、

延ばしてはいけない工事(構造・防水・安全)は絶対に後回しにしない

ここを間違えると、
劣化が進んで結果的にトータルコストが増えることもあります。


5. ステップ4:10年後にまた詰まないための「仕組み」を作る

今のピンチを乗り越えただけで終わると、
10年後にまた同じことが起きます。

そうならないために、最低限これだけは決めておきたいです。

  1. 長期修繕計画を5年ごとに見直すルール化

  2. 毎回、国の目安と自分たちの積立金を比較する

  3. 積立金の改定プロセスを規約・細則に書いておく

    • 「長計見直しの結果、必要額との差が○%以上なら改定案を必ず総会に上程する」など

  4. 会計の透明化

    • 管理費と修繕積立金を分別管理

    • 決算書を全戸に配布し、専門用語をかみ砕いた説明資料も添える

    • 必要に応じてマンション管理士や会計士など外部の目を入れる

一度ルールを作ってしまえば、
誰が理事長になっても、
「仕組みとして見直し・値上げの議論が自動的に起動する」状態にできます。


6. いま不安を抱えている理事さんへ

もしあなたが今、

  • 「自分の判断が間違っていたらどうしよう」

  • 「住民から責められたらと思うと怖い」

  • 「こんな大きなことを自分が決めていいのか…」

と感じているなら、
その不安はとても自然なものです。

でも、覚えておいてほしいのは、

あなた一人が“完璧な正解”を出す必要はない

ということです。

マンションの修繕・資金計画は、本来

  • 管理会社

  • 設計事務所

  • 施工会社

  • 金融機関

  • マンション管理士・専門家

こういった“チーム”で考えるべきテーマです。

理事長や理事会の役割は、

「正しい情報と選択肢を集めて、
みんなが納得しやすい形で差し出す人」

であって、
一人で責任を全部かぶる“犯人役”ではありません。


7. 次回は「理事のなり手不足・高齢化」の問題へ

今回は、
6つの問題のうちの①

修繕積立金が足りない

にフォーカスしてお話ししました。

次回は、

  1. 理事のなり手不足・高齢化で管理組合が回らない

という、これまた多くのマンションが抱えている悩みを、

  • 現実に今何が起きているのか

  • どんな役割分担・外部委託で乗り切れるのか

  • 「燃え尽きないための理事のメンタルケア」

このあたりも含めて掘り下げていく予定です。

あなたのマンションの状況が、
どれだけ厳しく見えていても大丈夫です。

「足りない現実をちゃんと見て、
それを数字と言葉で共有する」

そこからやり始めた管理組合は、
少しずつでも、必ず前に進んでいきます。

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