ブログ
2025/12/12

5つ目の爆弾。建替え・長寿命化工事の合意がまとまらない問題

「正解が分からないまま、時間だけが過ぎていく」つらさ

ここまでで、

  1. ①修繕積立金が足りない

  2. ②理事のなり手不足・高齢化

  3. ③老朽化・空室増加・準スラム化リスク

  4. ④会計不正・管理会社とのトラブル

を見てきました。

その“集大成”みたいなテーマが、今日の

 ⑤ 建替え・長寿命化工事の合意がまとまらない

という問題です。


「建替え」か「延命」かで、住民同士の溝が深くなる

築40年、50年のマンションで、
よくこんな会話が聞こえてきます。

  • ・「もう建て直した方がいいんじゃないか」

  • ・「いや、そんなお金ないよ。長寿命化の改修でいいだろう」

  • ・「自分はあと10年住めれば十分だから、大きな負担はごめんだ」

  • ・「子どもに残したいから、ちゃんと価値がある状態にしてほしい」

どれも、ぜんぶ“本音”です。

問題は、

 誰かが間違っているというより、
 立場やライフプランが違うだけなのに
 「建替え派 vs 反対派」みたいな構図になってしまうこと。

その結果、

  • ・話し合いの場が、だんだんギスギスしてくる

  • ・理事会も「重い議題だから」と先送りしたくなる

  • ・結局何も決まらないまま、建物だけ老朽化していく

これが、一番きついパターンです。


法律上も「ハードルが高い」のは事実

そもそも、建替えのハードルは法律的にも高いです。

  • ・現行の区分所有法では、建替え決議には
     「区分所有者数の5分の4以上」かつ「議決権の5分の4以上」
     の賛成が必要。アフリカWEB

つまり、20戸なら16戸以上の賛成
1〜2人の反対で進まなくなる世界です。

このハードルの高さがネックになってきたため、
国は今、

  • ・老朽化や安全性に問題があるマンションは、
     建替え要件を4分の3まで緩和する方向

  • ・所有者不明や長期不在の区分所有者を、
     裁判所の手続きで「議決の頭数から外す」仕組み

  • ・建替えだけじゃなく、
     一棟リノベーション・一括売却・取壊しなど
     多様な「再生メニュー」を法制度として整備

といった改正を進めています。地域特化型ポータル 不動産連合隊+1

それくらい、
今の日本全体が「決められない老朽マンション」を問題視している
ということでもあります。


「建替え」が唯一の正解じゃない時代になっている

大事なポイントはここです。

 いまの法律・政策は、「建替えだけが正解」とは言っていない。

国交省や法務省の資料を読むと、
老朽化マンションの“再生メニュー”として、例えばこんな選択肢が並びます。マンション管理・再生ポータルサイト+1

  • ・大規模修繕を重ねて長寿命化する

  • ・建物の骨組みは活かしつつ、
     一棟まるごとリノベーションする

  • ・建物と敷地を一括売却して、
     別の事業者に再生してもらう

  • ・どうしても無理なら取壊しも含めて検討する

  • ・もちろん、条件が整えば建替えも選択肢

つまり本当は、

 「建替えか、しないか」
 ではなく、
 「建替え・長寿命化改修・リノベ・一括売却 etc…
 どの再生パターンが、このマンションにとって現実的か?」

という“複数案を比べるゲーム”なのに、
現場ではどうしても

  • ・建替え派 vs 反対派

という二元論になりがちです。

ここを整理し直すだけでも、
話し合いの空気は変わってきます。


ステップ1:感情の前に「3つのシナリオ」を数字で並べる

まずやるべきなのは、
住民の好みの前に**“数字の現実”を揃えて見せること**です。

おすすめは、最低この3案を並べること。

  1. 1.最低限の修繕だけで延命する案

  2. 2.長寿命化改修・一棟リノベーションで延命する案

  3. 3.建替え(あるいは一括売却を含む再生)案

それぞれについて、

  • ・今後10〜20年でかかるトータルコスト(管理費+積立金+一時金など)

  • ・一戸あたりの初期負担額(最大いくら)」

  • ・月々の管理費・積立金がどの程度変わるか

  • ・工事期間中の仮住まい・引っ越し回数

  • ・終わった後の「資産価値の見込み」(あくまで概算・方向性として)

これを1枚の比較表+簡単なグラフにする。

ここができると、

 「なんとなく建替えこわい」
 → 「建替えはここまで負担が大きい。でも終わった後はここまで回収できる可能性がある」

 「修繕でいいんじゃない?」
 → 「修繕だけだと、10年後にまた同じ悩みが出てくる」

と、議論の“物差し”が揃ってきます。


ステップ2:オーナーのタイプ別に「不安のツボ」を言語化する

合意がまとまらない一番の理由は、

 「同じ数字を見ても、人によって怖いポイントが違う」

ことです。

ざっくり分けると、オーナーにはこんなタイプがあります。

A:高齢でローン完済、「ここで一生住み切る」人

  • ・もう大きな借金はしたくない

  • ・仮住まい・引っ越しそのものが身体的にしんどい

  • ・将来の資産価値より、「今の暮らしやすさ」の方が大事

B:現役世代・子育て世代

  • ・住宅ローンがまだ残っている

  • ・子どもの教育費もこれからピーク

  • ・「二重ローン」は絶対に避けたい

  • ・でも、将来売る可能性や資産価値も気になる

C:投資家・賃貸オーナー

  • ・利回り・賃料相場・出口価格が最重要

  • ・空室リスクが上がるのは避けたい

  • ・できれば“再生後”に賃料アップも狙いたい

D:空き家持ち・相続予定者など

  • ・そこに住んでいないので、日常の不便は気にしていない

  • ・一方、固定資産税や管理費の負担だけは重く感じる

  • ・「できるだけコストかけずに処分したい」が本音

合意形成のコツは、

 「この人たち全員を説得しよう」とする前に、
 「それぞれが何を一番怖がっているか」を整理すること。

ここが見えてくると、

  • ・Aさんには「仮住まい・引っ越し負担をどう軽減できるか」

  • ・Bさんには「一時金・ローン負担の具体的な上限」

  • ・Cさんには「再生後の賃料・売却価値のシミュレーション」

みたいに、“刺さる説明”が変わってきます。


ステップ3:数字の前に「将来像」を一度言葉にしてみる

意外と忘れられがちですが、

 建替えや長寿命化工事は、「将来のマンション像」を決めること

でもあります。

  • ・20年後、ここはどういう人たちが住んでいるマンションにしたいのか

  • ・高齢者が増えるのか、共働きや子育て世帯が多いのか

  • ・ペット・在宅ワーク・EV充電など、新しいニーズにどう対応したいのか

このあたりを、
1回でいいので真面目に話し合ってみる。

国のマニュアルでも、建替え決議の前提として

「まちづくり・ライフスタイルの将来像」を整理することが推奨されています。国土交通省

数字だけだと、
どうしても「損か得か」のケンカになります。

でも、

 「このマンションを、こういう場所として残したい」

という“物語”が共有できると、
不思議と人は少しだけ負担を受け入れやすくなるんです。


ステップ4:プロを“早めに”入れる

建替え・長寿命化工事の話は、
素人だけで決めるには重すぎます。

ここは遠慮なく、プロを味方につけた方がいいです。

  • ・再生コンサルタント

  • ・一級建築士(構造・設備に詳しい人)

  • ・不動産鑑定士(資産価値・事業性の評価)

  • ・マンション管理士・弁護士(法的スキーム)

さらに、国や自治体は今、

  • ・「マンションストック長寿命化等モデル事業」

  • ・「老朽マンション対策モデル事業」

などの名前で、

  • ・専門家派遣

  • ・合意形成の支援

  • ・長寿命化改修・建替え工事への補助

といった支援を用意し始めています。国土交通省+2マンション管理・再生ポータルサイト+2

「お金も時間もないから、とにかく安くで…」
とプロを入れるのをケチると、
結局、情報も合意形成もグダグダになりやすい。

むしろ、

 「専門家にきちんと入ってもらって、
 選択肢と数字とリスクをハッキリさせる」

ここにお金を使った方が、
長い目で見ればずっと安くつきます。


ステップ5:「合意形成の階段」を設計する

国交省の建替えマニュアルを見ると、
合意形成はざっくり、こういう“階段構造”で説明されています。国土交通省

  1. ①現状調査(劣化状況・耐震性・コストなど)

  2. ②勉強会・説明会(再生方法の「選択肢」を知る)

  3. ③方向性のたたき台(建替えor長寿命化、どちらを軸に検討するか)

  4. ④具体的な事業案・資金計画の作成

  5. ⑤個別相談・ヒアリング(高齢者・投資家などタイプ別に)

  6. ⑥最終的な決議(建替え決議・長寿命化工事の議決など)

多くのマンションがつまずくのは、

 ①②をあまりやらずに、
 いきなり⑥「賛成か反対か?」の投票を試みる

からです。

人は、
知らないものには反対しがち です。

  • ・勉強会で「選択肢」を知る

  • ・たたき台の案で「イメージ」を持つ

  • ・個別相談で「自分の家の事情」に照らして考える

このステップを踏んで初めて、
冷静な「賛成/反対」が出てきます。


ステップ6:「全員一致を目指さない」勇気も必要

建替え決議には、
まだしばらくは5分の4以上の賛成が必要です。アフリカWEB+1

ただ今後、
老朽化や安全性の問題がある場合には、
4分の3の賛成で進められるような制度が整っていきます。中京ハウジング株式会社+1

ここで大事なのは、

 「100%全員が心から賛成してくれる状態」をゴールにしないこと。

もちろん、できる限り不安を減らす努力は必要です。
でも、どれだけ丁寧に説明しても、

  • ・どうしても建替えが受け入れられない人

  • ・逆に「今すぐ建替えないと嫌だ」という人

は、一定数残ります。

区分所有法では、
建替え決議が成立した場合、

  • ・反対した人の区分所有権は「時価」で買い取り請求できる

  • ・その人も、後から建替え参加に回ることもできる

といったルールが用意されています。国土交通省+1

これはつまり、

 「みんなで決めた方向に進む代わりに、
 どうしても乗れない人には“お金で出口を用意する”」

という仕組みです。

「みんなの生活基盤」という公共性と、
「個々人の事情」を、完璧ではないにせよ
どこかで折り合いをつけるためのラインが、
5分の4(今後は一部4分の3)なのだと考えると、
少し見え方が変わってきます。


ステップ7:それでも決められないマンションは、どうなるか

ここはちょっとシビアな話になります。

国は今、
「管理不全のまま放置されているマンション」に対して、

  • ・外部の専門家を「管理者」として裁判所が選任できる制度

  • ・危険な状態になったマンションに対し、
     行政が勧告・命令できる仕組み

などを整備し始めています。国土交通省+2中京ハウジング株式会社+2

つまり、

 「何も決められないまま、
 管理も再生も進まない状態」を
 本気で減らしにきている

ということです。

これは脅しでもなんでもなくて、

  • ・自分たちで決められるうちに

  • ・自分たちの意志で再生の方向を選ぶ

方が、
圧倒的に自由度も満足度も高いという話です。


いま、板挟みで疲れている理事さん・オーナーへ

もしあなたが今、

  • ・建替え推進派と反対派の板挟みになっている理事長

  • ・将来のことを真剣に考えているのに、
     「またあの人が面倒なことを言っている」と見られがちな人

  • ・高齢の親のマンションをどうするか、
     遠方から心配しているご家族

だとしたら、
精神的にかなりしんどい局面だと思います。

でも、覚えておいてください。

 あなたの役割は、
 「全員から好かれる結論」を出すことではなく、
 「合理的な選択肢と数字を並べて、
 みんなが“納得して決めた”と言える状態まで持っていくこと」

です。

そのために、

  • ・3つの再生シナリオを比較する表を作る

  • ・勉強会を1回開いて、プロに話してもらう

  • ・オーナーのタイプ別に、個別相談の場をつくる

どれか一つでも、
“明日やれる一歩”を動かしてみてください。

合意形成は、
一気に大ジャンプで決まることはほとんどありません。

でも、小さな一歩を積み重ねていくと、
ある日ふと、

 「ここまで来たなら、もう腹をくくろうか」

という空気が、
マンション全体に生まれる瞬間があります。


次回は「⑥ 日常トラブル(民泊・ペット・騒音・EV充電など)」へ

これで、

  1. 修繕積立金

  2. 理事のなり手不足

  3. 老朽化・準スラム化

  4. 会計不正・管理会社トラブル

  5. 建替え・長寿命化の合意形成

まで、一通り触れてきました。

最後のテーマは、
一見「小さなイザコザ」に見えて、
実はマンションの空気を一番悪くする

 ⑥ 民泊・ペット・騒音・EV充電などの日常トラブル

について。

  • ・どこからが“個人の自由”で、どこからが“迷惑行為”なのか

  • ・規約・細則をどうアップデートしていけばいいか

  • ・「注意する側」が燃え尽きないための工夫

このあたりを、次回まとめていきます。

もし、
あなたのマンションでも「建替え or 延命」で揺れているなら、
この記事を理事会や住民グループにそっと共有してみてください。

それが、
“決められないマンション”から一歩抜け出す
きっかけになるはずです。

査定入口
店舗紹介
投資オーナー様
住宅ローンシミュレーション
相場を調べる
不動産用語集
ベルアールブログ
会社情報

有限会社ベルアール

久喜店

〒346-0012
埼玉県久喜市栗原4-1-27
TEL:0480-23-8244
FAX:0480-21-6304
お問い合わせはこちら

宅建免許番号:埼玉県知事(6)18203