水のゆくえ ② ―― 水を作る者、飲み干す者、隠す者
前回、水は「タダの資源」から「戦略資源」に変わりつつある、というところまで書いた。今日は、その貴い水をめぐる三者の話をしたい。作る者、飲み干す者、そして隠す者だ。 作る者 ―― 海の水から、水を作る足りないなら作ればいい。それが海水淡水化だ。海の水から塩を抜いて、飲める水にする。この技術の心臓部が「逆浸透膜(RO膜)」という特殊なフィルターなんだけど、ここで日本が地味に、いや、かなりすごい。 東レ、日東電工、東洋紡といった日本企業が、世界のRO膜市場のトップ級として名前を連ねている。だから「世界の淡水化プラントの相当部分が、日本の膜で動いている」というのは本当だ。東レがサウジアラビア初のRO膜工場を建てるほど、この分野で頼りにされている。 正確を期すと、「ほとんど日本」は言いすぎで、アメリカや韓国の企業も同格のトップにいる。それに海水淡水化が一番集中しているのは、実はアフリカよりも中東の湾岸諸国だ。でも、川を持たない乾いた国が海から水を作り、そこに日本の技術が確かに効いている——この骨格は、日本人として胸を張っていい事実だと思う。日本人が水に払ってきた執念が、世界の乾きを潤している。 飲み干す者 ―― AIが、水を飲むところが、水の需要側に、とんでもない新顔が現れた。AIのデータセンターだ。 サーバーは動くと猛烈に熱くなる。それを冷やすのに、大量の水を蒸発させる方式が長く使われてきた。どのくらいかというと、大型の施設ひとつで一日最大500万ガロン——人口5万人の町がまるごと使う量の水を「飲む」。米国のAIデータセンターは2025年に、約2,640億ガロン、およそ1兆リットルの水を消費したと推計されている。しかも新設の多くが、よりによって、すでに水の乏しい地域に建てられている。 そして、これが地元目線で一番刺さった。ジョージア州のある郡では、メタのデータセンター1施設が、郡全体の水消費の約10%を使っている。「地元で水がなくなると大騒ぎ」——私が久喜で肌で感じているのと、まったく同じことが、アメリカで起きているのだ。冷たいサーバーの向こうで、誰かの町の水が、静かに減っている。 隠す者 ―― 誰も、どれだけ使っているか知らないここで私が一番ぞっとしたのは、その水の使用量が、ほとんど「知りようがない」ように隠されていることだった。 多くの企業は、水の使用量を「専有情報」として、そもそも開示を拒む。世界最大級のアマゾンですら、自社の水消費量を初めて公表したのが2026年6月だ。それまでは、あれだけの巨大企業が、誰にも数字を出していなかった。テキサス州では、州が把握する341のデータセンターのうち、水使用量の報告に応じたのはわずか17%。州はその17%の回答率で、50年先の水計画を立てているという。議員が「ひどい回答率だ」と認めていた。 普通の人は、自分の町の水がどこで、どれだけ使われているのか、知ることすらできない。それが今の構造だ。ようやく最近、バージニア州が使用量を公開ウェブサイトで開示させる法律を作るなど、光を当てる動きは出てきた。でも、業界の抵抗も強く、綱引きの真っ最中だ。 ハイテク企業がどれだけの水を使っているかなんて、普通の人は知らない。いや、正確には「知りようがないようにされている」。これが、水が戦略資源になった時代の、居心地の悪い現実だ。 そして、私はふと足元を見た作る者がいて、飲み干す者がいて、隠す者がいる。水はそれほどまでに、世界を動かす資源になった。 ……と、ここまで世界の乾きをさんざん見てきて、私はふと、自分の家の蛇口を見つめた。日本の水は、なぜあんなに「当たり前に」きれいで、冷たくて、いくらでも出てくるんだろう。世界がこれだけ水で揉めているのに。 その当たり前の正体を追いかけたら、私は最後に、子どもの頃の井戸に帰ることになった。最終回は、いよいよ家に帰る話だ。 参考にした話(気になった人向け)
※ 数字や時期は執筆時点(2026年7月)のもの。この分野は動きが速いので、そのうち変わるかもしれません。 |








